最初から最後まで、わーーーっ、だった。わーー! ひゃーー! うぉーー! とか言ってる間に終わっていた。そんな感じ。

 それは何だったのかと、もっともらしく言葉にしていけば現場にあったものはスルスルと文字の隙間からこぼれ落ちてしまう。だから、これから書くことがいくら真面目で分析的だろうとも、最初の「わーーー!」にはまったく敵わないことを先に断っておきます。まったくライター泣かせだな、レイザーズエッジは。


photo by Ryohei Tsukada

 20年のキャリアを詰め込んだベスト盤『RAZORS MANIA』の発売記念、無料アウトストア・ライブ。昼12時30分からのスタートだから、まだエンジンのかかっていない眠そうな顔もチラホラと。その代わり、親に連れられて来たキッズや高校生くらいの少年もいる。どこでレイザーズを知ったのだろうと嬉しくなる。慣れた様子の大人たちの中に、少しずつヤングが混ざってくる。20年ずっと現役でなければ見られない光景だ。

 まだ体も温まってないだろうけど、と前置きしつつ、「俺に任せろー!!」とKENJI RAZORSが叫ぶところからライブはスタート(かくいう彼も朝まで飲んで相当な二日酔いであると、TAKAがMCで暴露していた)。一曲目「THE CLOSE GAME」から強烈なスラッシュが炸裂する。二曲目も、三曲目も四曲目も、つまり全曲がスラッシュだ。ステージに掲げられたおなじみのバンドロゴには「MORE SOUL FOR THRASH」の文字が見えるが、本当にこのバンドはスラッシュに20年間を捧げてきたんだなと痛感する。

 ハードコアを追求するのとは似て非なるものだ。ハードコアはいつだって「怒」が原動力だが、スラッシュはアドレナリンがすべて。猛スピードに身を任せ、興奮し、熱狂し、我を忘れ、どうにかなってしまいたい! そのモチベーションが怒りである必要はなく、むしろ「楽しい」の究極系だと言ってもいい。ついでに言うと、スラッシュには英国の俗語で「騒がしいパーティー」との意味もあるそうだ。のっけから全力で客席に突っ込んでいくKENJIを見ればわかる。まさにレイザーズエッジのための言葉である。


photo by Ryohei Tsukada

 騒がしいパーティーを続けるため。レイザーズの曲は、だから驚くほどバラエティに飛んでいる。KENJIのメロディやキャラがポップだから、とはよく言われることだが、目の前の演奏を見ていて思う。キモはリズムパターンとベースの歌心だ。KRASHのそれは性急な激しさがイイだけではなく、加速前のどっしりしたタメ、意表を突く絶妙なストップ、さらには加速しまくるピークにトドメを刺すさらなる再加速など、とにかく変幻自在で刺激的だ。おそらくドラムのテイクだけを聴いても飽きないだろう。そしてMISSILEの音は、こういうバンドのベースには珍しいくらいメロディ楽器として響くもの。TAKAが比較的シンプルなコードを弾いているぶん、彼の技術力の高さと大胆な発想に耳を惹き付けられる箇所が多い。そういう細やかな実力を駆使して、「速ぇ!」と「楽しい!」のスラッシュを、もっと言えば「わーーーっ!」の一言で済んでしまうライブをやっている彼ら。馬鹿馬鹿しいというか素晴らしいというか、とにかく笑っちゃうくらい尊敬できるのは間違いない。

 そして、全曲スラッシュだと言っておきながら全然違うことを書いてしまうが、レイザーズエッジがやっているのは、とどのつまりロックンロールである。メロディック・ブームの中で突如出てきたスラッシュ、ピザオブデス所属の異色ハードコアなどなど、これまでずっとパンクシーンの中で語っていたから気づかなかったが、「STORMY! STORMY!」や「RAZORS WIND」などの曲が放つエネルギー、その曲が始まった瞬間にフロアがバチーン弾ける様子は、間違いなく古典的ロックンロールと同じものだ。シンプルなスリーコード。すぐに合唱できるシンガロング・パート。理屈抜きに元気が湧いて、熱い拳を突き上げたくなるフィジカルなエネルギー。ボーカルが「ギター!」と叫んでから炸裂する最高のギターソロ。どれも50年代から偉大な先人たちが繰り返してきた基本のパターンではないか。

photo by Ryohei Tsukada

 彼らのラモーンズ好きは知られているが、それ以前のストーンズやビートルズ、さらにはチャック・ベリーやリトル・リチャードまで遡る大きな根っこが、このバンドには根付いているのだろう。あぁそうか、だからこんなに長く続くのかと目からウロコが落ちた気がした。中盤、「普段はなかなかやらないけど、それぞれ思い入れのあるナンバーを4曲やる」というMCから、MISSILEの選んだ「POSTMAN」が披露されたが、その曲の最後でTAKAが「ロックンロール! レイザーズエッジ!」と叫んでいた。原曲にこれをこっそり入れたのは十三ファンダンゴの加藤店長。ほとんど思いつきの叫びで、面白いからと採択したアイディアらしいが、私はおおいに納得していた。昔から彼らにロックンロールの血が流れていることを見抜いていた人がいたのだな、と。


 後半、曲のラストでKRASHが最も輝くナンバー「I HATE WRITING LYRICS」では、演奏終了後にもう一度ドラムソロがサービスされる。そしてKENJIは「次の目標決まった。これフジロックでやろう」と満面の笑み。その流れから「日本のフェスで最初にサークルモッシュを持ち込んだのはレイザーズエッジ!」と堂々の宣言も加わり、ERAのフロアにも見事なサークルが生まれていく。そこにふわりとダイブを決めて軽々と運ばれていくKENJIは、いったい幾つなんだと首を傾げたくなるくらいに元気。もちろん見た目の加齢はそれなりにあるのだろうが、曲のハチャメチャなテンションと、それをあくまで楽しげにプレイする姿は20年間まったく変わっていないように見える。ごく初期を知る人も同じことを言うだろうか。アンコールは地元ライブハウスへの愛を歌った「JUSO CRAZY NIGHT」。モッシュピットの中で、一瞬だけ、あのきったない(褒め言葉!)ファンダンゴの景色が浮かんだ。

 


photo by Ryohei Tsukada

 なお、ここまでずっと触れなかったが、このライブはすでにTAKAの脱退が発表された後である。「まだ次のギターが全然決まってない」と平気で明かすKENJIも、隣でずーっとニコニコしているTAKAにも、一緒になって笑っているファンにさえ、悲壮感というものが皆無だったのも面白い。ステージを去っていくTAKAには「またどっかでー」と気軽な声がかかっていたが、そういうふうに思えるバンドなのだろう。実は危機的状況なのに、元気そうに見える。実際元気にやっている。終わる気配なんてないし、またどこかですぐ会える。また次の楽しいことが始まるんだろう。その期待というよりも信頼が、今のレイザーズエッジにはある。20年やってきたバンドって、こういうことだ。

TEXT : 石井恵梨子



RAZORS EDGE 2016/10/23 ERA set list

1. THE CLOSE GAME (3)
2. DO THE SPIN SOUL (2)
3. WE UNITE (6)
4. FUTURE PRESIDENT (1s)
5. BORN AGAIN (1s)

6. FAITH (6)
7. SONIC!FAST!LIFE! (5)
8. STR8 TO SPAC E(3)
9. FUCKED UP! (15th)
10. STORMY! STORMY! (5)

11. MOUNTAIN MOUNTAIN (3)
12. RAZORS WIND (10th)
13. THRASH 'EM ALL!! (1)
14. RADIO "PUNK 007" (pizza VA)

各メンバーの思い入れのある曲コーナー
15. JET STERAM (3) ----KENJI
16. BLITZKRIEG THTRASH!! (1) ----TAKA
17. SKATE RIOT (5) ----KRASH
18. POSTMAN (3) ----MISSILE

19. DREAM TEAM (4)
20. I LOVE VANS (4)
21. UGLY KID (10th)
22. TRAIN TRAIN TRAIN (5)
23. I HATE WRITING LYRICS (5)

24. GLOW IN THE DARK (1)
25. LIVINGDEAD (1)
26. RAZORS EDGE IS MOST THRASH!! (2)
27. THRASH MARCH (1s)

アンコール
en1. JUSO CRAZY NIGHT (2)
en2. MORE SOUL FOR BEAT (1)


<<<<<<収録作品一覧>>>>>>
(1S) THARSH MARCH e.p.
(1) THRASH 'EM ALL!!
(2) RAZORS RISING!!!!
(3) MAGICAL JET LIGHT
(10th) SWEET 10 THRASHERS
(pizza VA) THE VERU BEST OF PIZZA OF DEATH vol.1
(4) THRASHING GOES LOVELY
(5) SONIC! FAST! LIFE!
(15th) FUCKED UP!
(6) RAW CARD